欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は2026年9月16日、欧州議会で一般教書演説(State of the Union)を行い、域内で生み出す安価でクリーンなエネルギーの強化を掲げました。
再生可能エネルギーや原子力と並び、バイオメタンに言及した背景には、2026年2月末の中東紛争勃発と、ホルムズ海峡封鎖に伴う化石燃料の輸入コスト急増があります。
この記事では、欧州委員会が4月に公表した「AccelerateEU」における位置づけ、REPowerEUが掲げる年35bcm目標に向けた進捗状況、今後の政策課題を整理します。
画像出典:© European Union, 2026
EU一般教書演説でバイオメタンに言及

一般教書演説は、欧州委員会の委員長が毎年9月に欧州議会で行い、翌年の優先政策課題を示す場です。
エネルギー政策のパートにおいて、委員長は「エネルギー価格が構造的に高止まりしたままでは、欧州が産業大国の地位を維持することはできない」と述べました。
ロシア産ガスの途絶に続き、ホルムズ海峡封鎖によって、輸入化石燃料に依存する代償を改めて痛感したと振り返っています。
電化が政策の主軸 バイオメタンは電化困難分野を補完

委員長は、再エネ、原子力、バイオメタンなどを例に挙げ、技術中立性を担保しつつも、域内のエネルギー自立に寄与する選択肢でなければならないと強調しました。
ただし、演説全体の中でバイオメタンへの直接の言及はこの一節にとどまります。
その直後に「欧州の電化」を強力に推し進める姿勢を鮮明にし、最終エネルギー消費に占める電力の割合(2024年時点で23.4%)を2040年までに倍増させる目標を提示しました。
政策の主軸はあくまで電化であり、バイオメタンは電化を補う選択肢の一つとして名指しされたと読むのが正確です。
European Commission:2026 State of the Union Address by President von der Leyen
AccelerateEUが示すバイオメタン拡大策 既設プラントを10〜30%増強

REPowerEUが「35bcm」という量的目標を示した政策だとすれば、AccelerateEUはその実現に向け、既存設備・原料・許認可・市場形成といった実装上の制約に踏み込んだ政策と整理できます。
一般教書演説内では具体的な用途に触れていませんが、政策上の位置づけは2026年4月22日に欧州委員会が公表した「AccelerateEU」に示されています。
European Commission:AccelerateEU – Energy Union: Affordable and Secure Energy through Accelerated Action(COM(2026) 370 final)
同文書では、バイオガスおよびバイオメタンが、電化が難しい分野において輸入化石燃料を代替し、より戦略的な役割を担い得ると明記しています。
さらに、既存プラントのバイオメタン生産量は、10〜30%程度引き上げられるとの見通しを示しています。
また、農家や農業協同組合によるオンファーム型事業を重視している点も大きな特徴です。
農業廃棄物や残渣、家畜ふん尿をエネルギーと有機肥料に転換することで、農村地域に新たな収益機会をもたらす手段として位置づけています。
| 項目 | 2022年 REPowerEU | 2026年 AccelerateEU / 一般教書演説 |
|---|---|---|
| 目標 | 2030年に35bcm | 35bcm達成に向け実装を加速 |
| バイオメタンの役割 | ロシア産ガス代替 | 輸入化石燃料の代替・電化困難分野 |
| 政策の方向性 | 生産拡大 | 既設増強・農場型・許認可改善 |
| 政策全体の軸 | 供給源の多角化と再エネ導入の加速 | 電化の推進(2040年までに最終エネルギー消費に占める電力の割合を倍増) |
化石燃料輸入費900億ユーロ増 中東紛争による負担
委員長は、中東での紛争勃発以降、輸入化石燃料に対して追加で900億ユーロを支払ったにもかかわらず、「得られたエネルギーは1分子たりとも増えていない」と強い危機感を示しました。
ここで言及されている紛争とはウクライナ侵攻ではなく、2026年2月末からの中東紛争を指しています。
AccelerateEUによる紛争開始52日間の試算では、追加の輸入コストは240億ユーロでしたが、半年余りで900億ユーロへと約4倍に積み上がりました。
化石燃料の輸入は同量にもかかわらず、価格だけが上昇しています。その根底にあるのは、欧州が抱える構造的な輸入依存体質です。
EUにとって天然ガスと石油は、依然として暖房・産業・輸送部門の主役です。
AccelerateEUによると、EUが2025年に輸入した化石燃料総額は約3,400億ユーロに達しました。また、域内で消費されるエネルギーの57%を輸入化石燃料が占めています。
European Commission:AccelerateEU – Energy Union: Affordable and Secure Energy through Accelerated Action(COM(2026) 370 final)
REPowerEUの35bcm目標と現在の設備能力

欧州バイオガス協会(EBA)が発表した「欧州バイオメタンマップ2026」によると、2026年第2四半期末時点におけるバイオメタンの設備能力は年8.2bcmに達しました。
前年同期比17%増となり、統計上初めて年8bcmの大台を突破しています。稼働施設数も1,678カ所から1,975カ所へと純増し、この1年間で327施設が新たに操業を開始しました。
しかしEBAは、この二桁成長を評価しつつも、本来発揮し得る潜在的な拡大ペースを依然として下回っていると警鐘を鳴らしています。
現在の8.2bcmはREPowerEUの35bcm目標に対して、低い水準にとどまっています。
なお、同マップの集計対象には、英国やスイスなどEU域外の設備能力も含まれる一方、REPowerEUの目標値は、EU域内での生産・利用量を対象としている点に留意が必要です。
REPowerEUの成立背景と国別の設備分布状況については、欧州バイオメタンマップ2026公開 ヨーロッパ市場の現状と動向にて詳しく解説しています。
EUバイオメタン政策の課題 需給マッチングと許認可
今後の実装面で注目されるのが、2026年6月に始動した「バイオメタン・メカニズム」です。買い手と売り手のマッチングや規制・投資情報の提供を通じ、域内市場の形成を支援します。
機能の詳細はEUバイオメタン・メカニズム始動 越境バイオメタン取引プラットフォームで解説しています。
一般教書演説を踏まえ、今後注視すべき主要な論点は、以下の4点に集約されます。
- バイオメタン・メカニズム第1回マッチングの成立状況と事業者の参加規模
- AccelerateEUで提示されたプラント許認可プロセスの迅速化、および原料の地域間輸送の改善が、どのような具体策になるか
- バイオメタン産業パートナーシップ(BIP)の後継枠組みとして想定される、加盟国バイオガスネットワーク(三者協定)の制度設計
- 7月17日に公表された電化行動計画に続き、冷暖房分野の計画でガス体エネルギーの役割がどう線引きされるか
European Biomethane Week 2026にも注目
2026年10月には、EBA主催の「欧州バイオメタンウィーク」がブリュッセルで開催され、ダン・ヨルゲンセン欧州委員(エネルギー担当)が基調講演を行う予定です。
European Biogas Association:European Biomethane Week 2026
一般教書演説後に開催される大規模な業界会合だけに、EUがバイオメタン政策をどのように具体化していくのかを読み取るうえで、ヨルゲンセン欧州委員の発言が注目されます。
中東依存というエネルギー安全保障上の課題は日本も同じで、国内ではバイオ燃料の海外事業への公的出資が議論に上っています。
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