ドイツのバイオガス大手EnviTec Biogas AGは2026年4月、スロバキアの自治体にあるバイオガスプラントで、EnviThanガス精製設備の初期ガス供給(initial feed-in)を完了したと発表しました。
稼働14年に及ぶ農業系バイオガスプラントに精製設備を後付けし、発電を継続しながらバイオメタンも生産・供給する併用モデルを採用しています。
EU復興基金(RRF)やREPowerEUを追い風にバイオメタン転換投資が加速する中東欧において、既存プラントを高付加価値化する参照事例となります。
EnviTec News & Media:EnviTec Biogas finalizes second gas upgrading project in Slovakia
EnviTec Biogasスロバキア2件目のバイオメタン精製設備
今回のプロジェクトは、EnviTec Biogasにとってスロバキア国内で2件目となる案件です。
同社は、CITA VIA s.r.o.が運営するOžďany(オジュジャニ)自治体の農業系バイオガスプラントに、EnviThan精製設備を追設しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 施設所在地 | スロバキア・Ožďany自治体 |
| 運営企業 | CITA VIA s.r.o.(農業系中規模企業) |
| 精製設備 | EnviThan ガス精製プラント(膜分離方式) |
| 精製設備容量 | 417 Nm³/h |
| 現在の処理量 | バイオガス 750 Nm³/h → バイオメタン |
| 将来目標処理量 | 最大 1,300 Nm³/h |
| 既存プラント稼働年数 | 14年(発電継続) |
| 主な原料 | トウモロコシ、牛わら堆肥、鶏糞 |
| 将来の原料方針 | 廃棄物系原料のみへの全面切り替えを計画 |
| 製造・出荷 | ドイツ・ザールベック工場(FAT実施) |
| サービス拠点 | EnviTec Service s.r.o.(チェコ・ヴェルケー・メジジーチー) |
EnviThan膜分離技術の特徴とFATによる品質保証
EnviThanはEnviTec Biogasが独自開発した膜分離方式のバイオガス精製技術で、Evonik Industries製の中空糸膜モジュール「SEPURAN® Green」を採用しています。
メタン分子を高圧側に留め、CO₂分子を膜透過させることで、メタン純度97%以上のバイオメタンを得られます。
薬品・水を一切使用しない乾式プロセスであり、コンパクトなコンテナ型モジュール設計を採用しているため、既存プラントへの後付けが容易です。
EnviTec Biogas:Biomethane & gas upgrading plants | EnviTec Biogas
また、出荷前にFactory Acceptance Test(FAT)を実施することで、現地での試運転期間を最小化し、迅速な商業運転開始を可能にしています。
稼働中のプラントに設備を追設する案件では、既存の発電運転を止める期間をいかに短縮するかが事業性に直結するため、工場側での事前検証は重要な要素となります。
関連記事:バイオガス精製装置の種類と選び方 脱硫・CO₂除去装置
発電(CHP)とバイオメタンの並行運用モデル
このプロジェクトの特筆すべき点は、発電(CHP:コージェネレーション)を継続しながらバイオメタン精製を同時に行う「並行運用モデル」を採用していることです。
CITA VIA s.r.o.は、既存の売電事業の収益を維持しつつ、バイオメタンというガス販売チャネルを新たに加えることで、収益の多様化と設備の高付加価値化を図っています。
並行運用では、発生したバイオガスをCHPと精製設備にどう配分するかが運転上の要点となります。
電力価格とガス価格の水準、それぞれの支援制度の条件によって最適な配分は変動するため、精製設備の容量設定は将来の増設余地を含めて検討されます。
今回の案件で現在の処理量750 Nm³/hに対し、長期的に1,300 Nm³/hまでの増設が計画されているのも、この段階的な移行を織り込んだ設計といえます。
トウモロコシから廃棄物系原料への全面転換
CITA VIA s.r.o.は、現在の主力原料であるトウモロコシを、将来的に廃棄物系原料(牛・鶏の農業残渣)へと完全移行する計画も進めています。
これは欧州のバイオメタン政策が掲げる「食料競合を避けるため廃棄物・残渣原料を優先する」という方向性(RED IIIの枠組み)と合致しており、将来の補助制度や認証取得でも有利に働くと見られます。
一方で、エネルギー作物から廃棄物系原料への転換は、投入物の性状変動が大きくなり、ガス収率や発酵の安定性、前処理設備の要件が変わることを意味します。
原料転換を伴うリパワリングでは、精製設備の選定と同時に、発酵プロセス側の設計見直しが求められます。
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既設バイオガスプラントのバイオメタン転換(リパワリング)とは

既設のバイオガス発電プラントに精製設備を追設し、バイオメタンの製造・供給へ事業領域を広げる取り組みは「リパワリング(repowering)」と呼ばれます。
新設プラントと比べ、発酵槽・受入設備・インフラをそのまま活用できるため、投資額と工期を抑えながらガス販売という新たな収益源を確立できる点が最大の利点です。
中東欧には2000年代から2010年代前半に建設された農業系バイオガスプラントが多数存在しており、これらが転換の候補となっています。
売電とガス販売の二本立てが生む収益構造
リパワリングの経済性は、精製設備の投資額と、バイオメタン販売による増収、そして補助制度の適用可否で決まります。
発電のみの事業では、支援制度の期間満了や電力価格の変動が収益を直撃しますが、バイオメタンという第二の販路を持つことで、価格変動に対する耐性が高まります。
加えて、バイオメタンには輸送燃料や産業用途など発電より高い価値で取引される市場があり、原産地証明(GO)などの環境価値取引も収益源となり得ます。
なお、EnviTec Biogasは今回の案件における投資額を公表していません。精製設備の導入費用は、処理規模、前処理設備の要否、導管注入設備や熱量調整・付臭設備の有無によって大きく変動します。
関連記事:バイオガスプラント建設費と運用コスト
スロバキアのバイオメタン政策と市場規模

今回のような案件が相次ぐ背景には、EU復興基金(RRF)や欧州エネルギー政策REPowerEUを追い風とした、スロバキア国内のバイオメタン転換投資の活発化があります。
EU復興基金(RRF)と転換補助
EUが設置した回復・強靭化基金(Recovery and Resilience Facility: RRF)は、スロバキアの再生可能エネルギー設備新設に対し、1億300万ユーロが利用可能となっています。
その対象には、バイオガス発電設備からバイオメタン製造設備への転換(repowering)が含まれており、資金面の裏付けが転換投資を後押ししています。
European Commission:Slovakia’s recovery and resilience plan
2030年目標300 mcmと転換候補34か所
欧州委員会がスロバキアの国家エネルギー気候計画(NECP)に対して行った2025年の評価では、同国が2030年までにバイオメタンを年間3億立方メートル(300 mcm)生産するという目標を明記しています。
EU Directorate-General for Energy:Commission’s assessment of Estonia and Slovakia National Energy and Climate Plans shows improvements on ambition closing in on 2030 targets but more efforts needed
一方、スロバキア国内でバイオメタン転換のポテンシャルを持つバイオガスプラントは34か所と分析されており(ドイツ連邦経済気候省BMWKの市場調査に基づく)、今後はこれらの開発が進む見通しです。
天然ガスへの依存度が高い同国にとって、この目標はエネルギー安全保障とも直結しています。
REPowerEUとロシア産ガス禁輸の影響
欧州委員会が2022年に打ち出したREPowerEUは、ロシア産化石燃料への依存脱却を最優先課題とし、バイオメタンの増産を主要施策のひとつに掲げています。
さらに2026年1月には、EU内へのロシア産ガス輸入を2026年3月から段階的に全面禁止とする規制が正式に採択されました。
スロバキアを含む中東欧諸国にとって、バイオメタンへの転換はエネルギー安保上の喫緊課題となっており、こうした政策環境が、EnviTecのような精製設備メーカーへの需要を押し上げています。
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中東欧バイオメタン市場の展望と今後の注目点
稼働14年という長期実績を持つ農業系バイオガスプラントに精製設備を後付けするモデルは、中東欧に多数存在する既設プラントの二次活用という観点から重要な先例となります。
同様の動きは隣国チェコでも進んでおり、チェコバイオガス協会(CZBA)は2035年までに約100か所のバイオメタン製造拠点整備を目指しています。
EnviTec Biogasは2025年6月にスロバキア第1号案件(Bierovce)を完工させており、今回の第2号案件(Ožďany)と合わせて同国での実績を積み重ねています。
EnviTec Biogas AG:EnviTec Biogas announces commissioning of first EnviThan plant in Slovakia
同社のEnviThanプラントは2024年に、累計100基目の受注を達成しています。スウェーデンやリトアニアなど新規国への参入も続いています。
中東欧全体で、膜分離型の精製技術に対する需要が拡大しつつあります。
参考記事:EnviTecのバイオガス事業概要
スロバキアにおける今後の事業展開においては、以下の点が注目されます。
- RRF資金(1億300万ユーロ)を活用した転換補助の活用可否と申請スキームの整備状況
- CITA VIA s.r.o.による処理量1,300 Nm³/hへの増設時期と廃棄物原料切り替えの進捗
- 2030年バイオメタン目標(300 mcm/年)達成に向けた国内34か所のバイオメタン転換候補プラントへの波及
- REPowerEUに基づくロシア産ガス全面禁輸(2026〜2027年)後のバイオメタン需要拡大










