ドイツ西部デュイスブルクの地域エネルギー会社Stadtwerke Duisburgは、2026年9月18日にEnergiepark Wanheim(ヴァンハイム・エネルギーパーク)の更新工事に着手しました。
新設する熱電併給(コージェネ)設備「HKW 3c」について、元請のETW Energietechnikは最大100%のバイオメタンで運転可能とし、ドイツ産バイオメタンは2026年9月15日時点で天然ガスより安いと主張しています。
この記事では、この価格の主張がどのような前提で成り立つのかを検証するとともに、「最大100%バイオメタン」の意味と、調達面の課題を整理します。
Stadtwerke Duisburg:Startschuss zur Modernisierung des Energieparks Wanheim: Stadtwerke Duisburg investieren 200 Millionen Euro
バイオメタンは天然ガスより安くなったのか

バイオメタンと天然ガスの価格差は縮小傾向にあるものの、バイオメタンが恒常的に下回ったことを示す根拠は公表されていません。
ETWの主張は2026年9月15日時点の比較であり、算定方法も示されていません。
r.energy:ETW baut H2-ready KWK-Heizkraftwerk in Duisburg
独消費者情報サイトFinanztipによると、バイオメタン取引会社Agriportanceが提示した2026年初頭の長期契約価格は1kWhあたり7.5〜8セントでした。
対して、ドイツ連邦統計局が公表した天然ガス輸入価格は、2025年から2026年初めにかけて3.5〜4.5セントで推移していましたが、その後の中東情勢を受けて、欧州の天然ガス価格は上昇しました。
Trading Economicsによると、欧州指標であるオランダTTF価格は、2026年9月28日時点で1MWhあたり71ユーロ台をつけ、前年同期比の約2.2倍に達しました。
Trading Economics:EU Natural Gas – Price – Chart – Historical Data – News
バイオメタンの長期契約価格を同じ単位に直すと75〜80ユーロとなり、9月の天然ガス価格に近い水準です。
しかし、バイオメタンは年初の長期契約価格、天然ガスは9月の市場価格であり、時期も取引形態も異なる指標を並べた比較にすぎません。
Finanztipは、中期的にはバイオメタンが1kWhあたり約4セント割高な状態が続くとみており、中東情勢による差の縮小は一時的としています。
Finanztip:Was kostet Biogas? Günstige Anbieter finden & vergleichen
EU ETS対象設備 排出枠コストの影響
EU域内排出量取引制度(EU ETS)の対象設備は、燃焼で排出したCO₂の量に応じて排出枠(EUA)を納める必要があるため、天然ガスを使うと燃料価格に排出枠のコストが加わります。
独法律事務所CMSの解説によると、ガス導管に注入されたバイオメタンは、以下の条件を満たした場合に排出係数をゼロとして扱えます。
- EU再生可能エネルギー指令(RED)の持続可能性基準と温室効果ガス削減基準を満たす
- 同じ量が二重に計上されない
- 設備の運営者と生産者が同じガス導管網につながっている
そのため、排出枠のコストまで含めて比べると、両者の価格差はさらに縮まります。
CMS:Zero-rating in European emissions trading as a decarbonisation option
参考記事:EUバイオメタン・メカニズム始動 越境バイオメタン取引プラットフォーム
「最大100%バイオメタン」は何を意味するのか

これは、新設設備に「最大100%バイオメタン」専用構造があるわけではなく、天然ガスとバイオメタンの物理的な燃料互換性に基づいた表現です。
ETWによると、HKW 3cは最終段階で15基のガスエンジンを備え、電気出力67.5MW、熱出力74MW、総合効率94.9%となっています。地域熱供給には最高120℃の温水を送ります。
参考記事:CHP ガスコージェネレーションシステム
同社は、改造なしでバイオメタンの混合率を段階的に最大100%まで上げられると説明しています。
一方、発注元であるStadtwerke Duisburgの発表は、将来の燃料としては水素への対応(H2-ready)だけに触れており、現時点で水素20%の混焼が可能で、改造すれば水素のみで運転できるとしています。
同社の発表には、バイオメタンの調達計画は含まれていません。また、熱出力は同社の発表では最大約80MWとされ、ETWの数値とは異なります。
参考記事:ヨーロッパの主要バイオガス・RNGデベロッパー・設備メーカー
水素対応は熱電併給法(KWKG)の補助要件
水素対応(H2-ready)は、ドイツの熱電併給法(KWKG)が大型設備に補助金を支払う条件の一つです。
独エネルギー業界紙ZfKによると、2023年改正のKWKGは、2023年6月30日より後に許可を受けた電気出力10MW超のガス燃料の新設設備に対し、2028年以降に水素だけで発電できるよう改造できることを求めています。
あわせて、改造費用を同じ出力の設備を新設する費用の10%以内に収める必要があります。
ZFK:BDEW fordert KWKG-Novelle – höhere Förderung und Rechtssicherheit
なお、KWKGではバイオメタンを使う設備も補助の対象です。2022年の法改正で一度は除外が決まりましたが、自治体の地域熱供給の脱炭素化に必要だとして、同年12月に撤回されています。
Wanheim更新の全体像 2億ユーロで何を置き換えるのか

このプロジェクトは、1975年から約50年間稼働してきた旧型ガスタービン(電気出力40MW、熱出力80MW)を、3系統の複合熱源設備へ置き換える計画です。総投資額は約2億ユーロに上ります。
Stadtwerke Duisburgは、市の持株会社DVVが80%、独エネルギー会社RheinEnergieが20%を出資する株式会社で、市内の7万世帯超に地域熱供給を行っています。
既存のガスタービンは2027年半ばに停止し、新設備群は2029年末までの稼働を目指しています。
| 設備 | 最終規模 | 第1段階 | 役割 |
|---|---|---|---|
| コージェネ | 15基、電気約67MW・熱最大約80MW | 10基 | 電気と熱を同時に供給 |
| 河川水ヒートポンプ | 4基、熱約60MW | 3基 | ライン川の熱を利用 |
| 電気ボイラー | 最大2基、熱60MW | 1基 | 電気を熱に変換 |
Stadtwerke Duisburg:Energiepark Wanheim
今後の論点 バイオメタンを実際に調達するのか

今後の論点は、Stadtwerke Duisburgが実際にバイオメタンを調達するかどうかです。エンジンがバイオメタンに対応していても、実際の利用量は、市場で調達できる量と価格で決まります。
Finanztipによると、ドイツのバイオガス事業者の大半は現地で発電と熱利用を行っており、バイオメタンまで精製する事業者は少数です。
連邦ネットワーク庁の統計では、2025年にガス導管へ注入されたバイオメタンは約10TWhであり、国内ガス総消費量の1%程度にすぎません。
加えて、建物近代化法(GModG)により、新設のガス暖房には2029年からバイオメタンの使用が段階的に義務付けられます。暖房用とコージェネ用で、限られたバイオメタンを取り合う構図が生じます。
参考記事:ヨーロッパのバイオメタン市場を知る 欧州バイオメタンマップ
Wanheimでは、コージェネを河川水ヒートポンプや電気ボイラーと組み合わせ、需要や電力市場の状況に応じて使い分けます。そのため、コージェネの年間燃料消費量は、この使い分けによって左右されます。
今後確認すべき点は、バイオメタンの長期調達契約や、残る5基の増設時期、EU ETSでの扱いです。
日本のバイオメタン利用への示唆
日本でも、都市ガス導管を経由したバイオメタンの環境価値を特定の設備に紐付ける実証が始まっています。
日立製作所と東京ガスは2026年8月から、日立の企業ミュージアムのガス空調設備で、海外産バイオメタンの利用を設備単位で証明する実証を行っています。
Wanheimの事例と同じく、導入の課題は燃焼機器の互換性ではありません。限られたバイオメタンをどの設備に割り当て、その環境価値をどう証明するかという、調達と制度の側にあります。
参考記事:バイオメタン利用を設備単位で証明 日立と東京ガスが実証
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