山形県米沢市でバイオガスプラントを運営する株式会社ハイポテックが2026年8月25日、新ブランド「THE GARLIC & LAB」の始動を発表しました。
同社が2020年から運営するメタン発酵バイオガスプラントの消化液を有機肥料に用い、にんにくの栽培から加工・販売までを自社でつなぐ取り組みです。
2026年10月には、加工拠点となる新工場が竣工する予定で、2027年にはECサイトを開設して全国販売を始める計画です。
バイオガス事業者にとって長年の重荷であった消化液を、処理対象ではなくブランドの原資へと転じる設計であり、液肥の出口づくりに悩む国内プラントにとって示唆に富む事例です。
株式会社ハイポテック:バイオガスプラントから農業、食へ。米沢発の新ブランド「THE GARLIC & LAB」が始動
バイオガスの消化液はなぜ「余る」のか
メタン発酵の消化液が持つ肥料としての性能は、研究によってすでに確立しています。課題は成分ではなく、物流にあります。
消化液は化学肥料と比べて、成分の濃度が低く嵩張るうえ、メタン発酵では原料とほぼ同量の消化液が生成されます。
農研機構のレビューは、施肥ムラや施用後の耕起作業への支障を避けるため、一度の施用量は5〜6トン/10a程度が上限であるとしています。
さらに、地表に撒けばアンモニアが揮散して速効性の成分が失われます。これを抑えるには施用直後の混和や土中施用が欠かせず、耕種農家が普段使う機材では扱えません。
必要な農地は約300ヘクタール 米沢のプラントから逆算

この制約を米沢のプラントに当てはめると、規模感が具体的に見えてきます。同プラントは牛ふんと食品残渣を1日あたり40〜45トン受け入れています。
消化液が原料とほぼ同量発生すると仮定すると年間約1.5万トンとなり、上限の5トン/10aで年1回散布するだけでも、約300ヘクタールの農地が必要になる計算です。
しかも、寒冷地では積雪期に散布ができません。半年分の貯留槽が必要になる可能性もあり、その負担は小さくないと考えられます。
つまり、消化液の本質的な課題は、受け取って撒いてくれる農地と担い手を、季節をまたいで確保し続けられるかにあります。
北海道十勝のJAおとふけのように、FIT売電と消化液の液肥利用を両立させ、学校給食の残渣までを含む地域循環を組み立てた事例もありますが、そこに至るには長い時間がかかります。
参考記事:JAおとふけバイオガスプラント 畜産ふん尿と野菜残渣で地域内の資源循環
消化液を排水処理せず自社利用・6次産業化

国内のバイオガス事業には、消化液を排水処理してしまうという選択肢もありますが、コストがかかるうえエネルギー回収の意義も薄れます。
農地還元を前提とした出口は、大きく分けて2種ありましたが、今回の米沢の事例は、そのどちらとも異なる第三の型として整理できます。
| 類型 | 代表的な手法 | 強み | 弱み |
|---|---|---|---|
| ①周辺農家へ供給 | 散布サービス付きで無償・低価格提供。液肥利用者協議会の組成(例:南三陸BIO) | 追加設備が小さい。地域との関係構築に資する | 需要期が偏る。輸送距離と担い手確保が律速 |
| ②濃縮・成分回収 | 減圧濃縮によるペレット肥料化、膜・蒸留によるアンモニア回収 | 運搬・保管性が向上し広域流通が可能。既存の散布機が使える | 設備投資と熱源が必要。排水処理費(目安5,000円/t)が採算の天井 |
| ③自社利用・6次産業化 (本件) | 自社圃場で栽培し、加工・販売まで自社で担う | 需要変動を自社で吸収。副産物が製品原価とブランド価値に転化 | 農業・食品製造という異業種の運営能力が必要。立ち上げに時間がかかる |
③の要点は、消化液を「引き取ってもらう」対象から「自社の生産財」へと位置付け直したことです。
散布量も時期も自社判断で決められるため、①で最大の難所となる需給調整が社内で完結します。
さらに、加工とEC販売まで自社で担えば、副産物の価値は肥料代替分にとどまらず、最終製品の粗利として回収されます。
農林水産省の6次産業化総合調査でも、令和6年度の農業生産関連事業の年間総販売額2兆2,244億円のうち、農産加工と直売所がほぼ全体を占めており、加工が収益化のポイントになることがわかります。
同じ米沢市では濃縮ペレット化のルートも動いている
米沢市では、②の類型も並行して進んでいます。同市と飯豊町は2025年5月、環境省の脱炭素先行地域「米沢×飯豊発!肉用牛バイオガス発電モデル2.0」に選定されました。
この計画では、両自治体に500kWの牛ふんバイオガス発電所を新設し、余剰熱で消化液を減圧濃縮してペレット肥料化するとしています。
提案書は消化液について、貯留に巨大な槽が要ること、運搬に特殊な大型車両が必要なこと、散布時期や場所に制限があることを挙げ、すべてを液肥のまま利用するのは現実的ではないと明言しています。
その背景には、米沢市に堆肥センターがなく、個々の畜産農家が排せつ物処理を担っている事情もあります。同一エリアで②と③が並行して検証される構図はあまり例を見ず、どちらが持続するかは今後の注目点です。
環境省:脱炭素先行地域 第6回 提案書
ハイポテックのにんにく事業「THE GARLIC & LAB」

ハイポテックは排ガス処理装置やガス精製装置を手がける環境プラントエンジニアリング企業で、再生エネルギー事業としてメタン発酵プラントの設計・施工も行っています。
にんにく事業「THE GARLIC & LAB」は、ハイポテックが自社EPC(設計・調達・建設)で建設し、現在も運営する米沢市のプラントが起点となっています。
THE GARLIC & LAB:THE GARLIC & LAB
同社は2023年からにんにく栽培を始めており、このプラントの消化液を有機肥料として利用しています。
2023年に作付けした「山東」に続き、2025年6月の収穫に向けて区画を拡大し、青森県産で知られる「福地ホワイト六片」を1万株規模で栽培しました。
にんにくを選んだ理由として同社が挙げるのは、寒冷地向けの品種があること、そして生食だけでなくオイルやペースト、黒にんにくなど加工展開の幅が広い点です。
リアクト米沢バイオガスプラント 牛ふんと食品残渣で約370kW
リアクト米沢バイオガスプラントの諸元は同社サイトで公開されています。
- 稼働開始:2020年(自社EPC、O&Mも自社実施)
- 原料:地元農家の牛ふん、近郊の食品加工会社の食品残渣など計40〜45トン/日
- 発電:CHP(熱電併給)による出力約370kW
- 熱利用:温水をプラント内のロードヒーティング熱源に使用し、冬季の除雪作業を軽減
- 稼働率:97%以上を維持(同社公表値)
株式会社ハイポテック:リアクト米沢バイオガスプラント プラント概要と関連機器
余剰熱を融雪に利用することで、特別豪雪地帯という立地の制約を逆手に取っている点が特徴です。
その一方で、融雪の需要は冬季に限られます。同社が公表している熱の用途はロードヒーティングのみで、通年での使い道を広げる余地があります。この点が新工場の位置付けにつながります。
2026年10月に新工場が竣工予定 余剰熱を商品づくりへ

新工場「THE GARLIC & LAB」はメタン発酵プラントの隣接地に建設され、2026年10月の竣工を予定しています。同社によれば、新工場ではプラントで生じる余剰熱の活用も計画されています。
バイオガス専焼のガスエンジンは発電効率が3割台にとどまり、回収できる熱量は電気を上回ります。それでも国内の多くのプラントでは、発酵槽の加温と場内利用で使い切れず、放熱している例が少なくありません。
米沢のプラントも、これまでの熱の出口は冬季のロードヒーティングが中心でした。乾燥や加熱を伴う食品加工を隣接地に置けば、通年の熱需要が生まれます。
消化液という物質の出口と、余剰熱というエネルギーの出口を、一つの建屋で同時に埋める構図です。
- 1次産業:消化液を活用した自社圃場でのにんにく栽培
- 2次産業:新工場での商品開発・加工・製造(余剰熱を活用)
- 3次産業:ECサイトを通じた全国販売(2027年開設予定)
にんにく栽培事業の合理性

にんにくという作目の選択にも、事業設計としての合理性があります。国内のにんにく生産は2022年産で作付面積2,550ヘクタール、収穫量2万400トンにとどまり、青森県が作付面積の約55.7%を占めます。
2022年時点で輸入品が供給量の半数を超え、その9割以上を占める中国産は、国内産の2割程度の単価水準にあります。国産品には価格競争力ではなく、産地と加工・付加価値で勝負する余地があります。
加えて秋定植・初夏収穫という作型は、積雪期に散布ができない寒冷地の消化液利用と、施肥のタイミングが衝突しにくい構造にあります。
独立行政法人 農畜産業振興機構:中国産野菜の生産と消費および輸出の動向(にんにく)
なお、本件は消化液と熱の出口に関する発表であり、売電や食品残渣の受入料金といったプラント本体の収益構造は公表されていません。
副産物の処理コストを抱えたまま採算が悪化した事例も、国内には存在します。プラント単体ではなく、副産物の出口まで含めた事業全体で収支を組む設計が機能するかどうかが検証点になります。
参考記事:西東京リサイクルセンター破産へ 食品廃棄物発電の採算課題














