デンマークでは2026年7月4日、1日あたりのバイオガス生産量が、国内の消費量を一時的に上回りました。
デンマークバイオガス協会(Biogas Danmark)の分析によると、当日の実質的なガス生産量は需要の100%を超えており、バイオガスのみで国内需要を賄える計算になります。
Maskinbladet:Biogas dækker hele Danmarks energibehov for første gang i år
夏季のバイオガス生産量が100%を超える要因として、季節によるバイオガス需給の変動があります。
バイオガス生産量が国内需要100%超え 需給の季節変動

家畜糞尿や農業残渣を原料とするバイオガスプラントは、年間を通じて原料が安定供給されるため、生産量の季節変動が小さいという特徴があります。
しかし、デンマークでは冬場の暖房用ガス需要が増大するため、季節によるガスの需給変動が大きく、夏季はバイオガスだけで需要を賄う割合が高くなります。
実際、2026年6月には月間の割合が約70%に達したと報じられており、年間平均のバイオガス比率40%との差が、こうした季節性を物語っています。
同協会のラース・カスパーセン専務理事は、産業用や暖房用のガス需要が夏場に落ち込む一方で、バイオガスの生産量が着実に増え続けた結果、需要と供給が交差する「点」に達したと説明しています。
ただし、気温が下がれば再び天然ガスが必要になるため、100%超えは恒常的ではないと認めています。
デンマークの系統内バイオガス比率の推移
EnerginetとDI Energiが公開している、アップグレード後に供給されたバイオガスの比率です。
| 年(年間平均) | 系統内バイオガス比率 |
|---|---|
| 2020年 | 約17% |
| 2021年 | 約22% |
| 2022年 | 約34% |
| 2025年 | 約40% |
| 2026年6月(単月) | 約70% |
Energinet DK:Andelen af biogas i nettet
導管注入型が実需燃料になる意味
今回の事例が重要な理由は、精製やアップグレードを経て、既存のガス導管に注入されたバイオメタンが、国全体のガス需要を直接置き換えた点にあります。
系統運用者のEnerginetは、ガスの生産量がMWh単位で消費量を上回った日を実際に測定しており、オリジン保証(証書)によってその「グリーンな価値」も担保されています。
既存のインフラをそのまま活用できるため、暖房・産業・輸送などの分野を横断して脱炭素化できるという汎用性が、あらためて裏づけられた形となりました。
生産が消費量を上回る グリーンガスの交差点
デンマークでは、バイオガス生産量が国内ガス消費量を上回る(交差する)転換点を、「det grønne gaskryds(グリーンガスの交差点)」と呼んでいます。
これは、再生可能ガスの生産量が需要と一致し、化石ガスからの脱却が始まる象徴的な指標となっており、政策や業界の文書でも広く用いられています。
同様の到達目標(100%グリーンガス)や、「再生可能ガス100%」といった表現は、他のEU諸国や英語圏でも見られます。
デンマーク2030年100%グリーンガス網の目標
デンマーク政府は、年間を通じて100%グリーンなガス網を実現する目標を掲げています。これはもともと2022年夏に、脱ロシア産ガスを目指す文脈で採択されたものです。
しかし、2026年の気候見通し(Klimastatus)では、通年でガス生産量が消費量を上回る時期が、想定より後ろ倒しとなったため、2030年までの目標達成は難しいとの見方が強まっています。
その主な原因は、家庭・産業部門のガス消費量見通しの上方修正や、新規プロジェクトの遅延にあります。
Dansk Gartneri:Danmark når ikke målet om 100 pct. biogas i 2030
100%グリーンガス網の課題
グリーンガス100%に向けた課題として、業界側は次の点を挙げています。

- 税制:バイオガスと天然ガスが同等に課税されており、CO₂税の免除措置はEUの国家補助規則と整合性を取るのが難しい
- 需要側の義務化:使用ガスに対して、一定比率のグリーンガス含有を求める仕組みが未整備
- 許認可の長期化:施設の建設よりも、許認可取得に大幅な期間を要する
- 系統の受入容量:局地的な「バイオガス滞留」を避けるため、Energinet / Evidaが昇圧設備を整備中
一方で、資源面での拡大余地は大きく、南デンマーク大学(SDU)の分析によると、国内のバイオマス資源は、現在の生産量を最大でほぼ3倍に引き上げる潜在力があるとされています。
今後の制度設計次第で、通年でのグリーンガス100%化も不可能ではないというのが業界の立場です。
バイオメタン活用の課題と日本への示唆
デンマークの事例は、バイオメタンの導管注入が、実証から実需へと移行しつつあることを示しています。
また、季節変動を吸収するガスの貯蔵や、余剰バイオメタンをe-SAF・輸送燃料へ振り向ける高度利用が、今後の課題になると見込まれます。
日本でも、北海道の鹿追町などで都市ガス導管への注入が進められていますが、系統内のバイオメタン比率は依然として低い水準にとどまっています。
参考記事:国内初のバイオメタン都市ガス利用へ 北海道鹿追町・エア・ウォーター・帯広ガスが連携
デンマークの事例が示唆するのは、生産設備の増設だけではバイオメタン活用は進まないという点で、グリーンガス調達の義務化や、証書制度の整備、許認可手続きの迅速化をセットで進める必要があります。






