大和ハウス工業は2026年9月24日、社員食堂の食品残さから生成したバイオガスをバイオメタノールに変換し、発電燃料として活用する実証を2027年3月から開始すると発表しました。
大和ハウス工業株式会社:日本初 食品残さ由来のバイオメタノールを活用した発電システムの実証実験開始
大阪大学の大久保敬教授らと開発した光酸化反応を用いて、メタンを常温・常圧下でメタノールに変換する点が特徴です。
この記事では、実証の仕組みや変換率89%の意味、他ルートとの差異、自社製メタノールが担う電力量の試算、実用化に向けた課題を整理します。
食品残さバイオメタノール発電実証の概要

実証期間は2027年3月19日〜9月26日で、GREEN×EXPO 2027の会期と重なります。実証の流れは次の通りです。
- 原料:栃木二宮工場(栃木県真岡市)の社員食堂の食品残さ 約25kg/日
- バイオガス化:小型バイオガス化装置で1日1〜2m³を生成
- メタノール化:光酸化の試験機(3連タンク・計135L)で合成し、メタノール58%の水溶液に調製
- 利用:横浜会場の「大和ハウスグループ エンドレスハートパーク」へ輸送し、冷風設備の電源に使用
三菱ガス化学から調達するバイオメタノールを併用して、冷風設備の電力をすべて賄う計画です。化石燃料由来の電力を使った場合と比べ、会期中に約2.7トンのCO₂削減を見込みます。
実証では、合成量やメタンの変換効率、コスト、安全性、商用化に向けた法令適合性を検証します。
メタンを常温でメタノールに変える光酸化技術

工業的なメタノール製造では、天然ガスを一酸化炭素と水素に改質してから合成するのが一般的であり、50〜100気圧・240〜260℃の高温高圧環境と、金属触媒が必要になります。
その一方で、大久保教授らは2017年に、二酸化塩素とメタンへの光照射によって、常温・常圧下でメタノールとギ酸を得る反応を報告しました。
当時はメタンの99%が反応したものの、生成物の大半はギ酸で、メタノールになった割合は14%にとどまりました。
2025年には、反応溶媒を同じフッ素系のパーフルオロアルケニルエーテルに変更し、光の照射条件を改良したことで、この割合(変換率)は89%まで向上しています。
なお、ここでの変換率とは「反応に投入したメタンに対する、生成したメタノールのモル比」を指します。
大阪大学:高変換率のバイオメタノール合成法を開発
大和ハウスはこれまでに、反応時間の短縮などを検証する100Lの試験機を開発しており、今回開発した135Lの試験機で、変換率89%に近い水準を維持できるかが検証点となります。
液体にする利点と、使われないCO₂

バイオガスは気体のため、小規模・分散型で輸送する場合は、高圧容器や導管が必要です。
常温で液体のメタノールなら、タンクでの貯蔵・輸送が可能となり、製造地と消費地を柔軟に切り分けることができます。
一方で課題もあり、低位発熱量基準で比較すると、メタノール1molはメタン1molの約8割にとどまり、仮に変換率が100%であっても、約2割のエネルギーロスが生じます。
また、この技術の光酸化で反応するのはメタンのみで、バイオガスの約4割を占めるCO₂は原料になりません。
メタンとCO₂の双方を原料に用いる三菱ガス化学の既存プラント方式とは、この点が根本的に異なります。
他のバイオガス化学品ルートとの違い 日本初の範囲
大和ハウスが「日本初」とするのは、食品残さ由来のバイオガスからメタノールを合成し、発電まで繋げる一連のプロセスです(2026年8月末時点、同社調べ)。
要素技術単位で見ると先行事例があり、三菱ガス化学は2024年から下水消化ガスを原料にバイオメタノールを製造しています。
また、北海道興部町と大阪大学は2019年に連携協定を結び、家畜ふん尿由来のバイオガスを使った実証を進めてきました。2022年にはパイロットプラントを整備しています。
こちらは、牛の飼料添加剤などに使うギ酸の製造を主な目的としています。
燃料電池向けバイオメタノールの市販例もあり、バイオメタノールによる発電自体はすでに国内で行われています。大和ハウスの新規性は、食品残さを起点として製造・発電する点にあります。
電気興業株式会社:カーボンニュートラルを実現する燃料電池用バイオメタノールの販売開始
同じ光化学アプローチでも、光オンデマンド技術(神戸大学発、泉南市で実証)がホスゲンを経由して高付加価値な化学品を合成するのに対し、本実証はメタノールを燃料として使う点が対照的です。
自社製バイオメタノールは電力の何割か マスバランス方式との併用

編集部の試算では、バイオガス1〜2m³/日(メタン濃度60%)を変換率89%でメタノール化した場合、生成量は1日あたり約0.8〜1.5kg(低位発熱量換算で約4〜8kWh)となります。
発電効率を30〜50%と仮定すると、会期約190日間での発電量は240〜810kWhにとどまります。
公表された削減量2.7トンから逆算される必要電力量(排出係数0.40〜0.45kg-CO₂/kWh換算で約6,000〜6,800kWh)に照らすと、自社製メタノールが寄与する割合は数%〜1割強にとどまる計算です。
内訳は非公表ですが、総需要の大半を三菱ガス化学からの調達分が補う構造とみられます。
この調達分は、化石原料と混合処理し、バイオ原料の投入割合に応じて製品の一部にバイオ属性を割り当てるマスバランス方式で供給されます。
同会場では、東京ガスもe-メタンの環境価値を証書で移転し、横浜市の出展施設でSOFC発電を行う予定です。
会期中は「現物利用」「マスバランス」「証書取引」という3通りの環境価値アプローチが揃う点も注目されます。
実用化に向けた課題と今後の展開
燃料をメタノール58%水溶液とした理由について、同社は安全性への配慮を挙げています。
消防法では、メタノールなど炭素数1〜3の飽和一価アルコールの含有量が60%(重量)未満の水溶液は、危険物第4類「アルコール類」から除外されます。
総務省消防庁:アルコール類判断フローチャート
アルコールと水だけで構成される場合は、危険物に該当しない扱いとなるため、58%はこの基準を下回るよう設定された濃度とみられます。
ただし、光酸化反応ではメタノールと並んでギ酸も生成します。アルコールと水以外の成分を含む場合は、可燃性液体量や引火点・燃焼点による追加の判定条件が加わるため、副生成物の残存量まで含めた法令適合性の検証が欠かせません。
コスト面でも課題があります。農林水産省の調査資料によると、興部町・大阪大学の方式ではメタノールの製造コストが1,000円/kgとなり、2025年平均の市場価格(約50円/kg)を大きく上回っています。
同資料は、市場価格に近づけるには光による反応速度を3倍に高める必要があると指摘しています。
同じ二酸化塩素の光酸化ですが、大和ハウスの改良法(変換率89%)でどこまで差を縮められるかも焦点です。
農林水産省:家畜排せつ物等高度利用実態調査 検討会
大和ハウスは実証成果を踏まえ、栃木二宮工場をはじめとする自社施設への導入を検討する方針です。2025年の技術発表時には、2030年ごろに自社の工場や事務所などで活用する考えが報じられました。
日本経済新聞:大和ハウス、メタン9割をメタノールに変換 脱炭素へ活用
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