英BPは2026年8月4日、第2四半期決算の発表にあわせて、米国のバイオガス子会社Archaea Energy(アーキア・エナジー)の売却手続きを開始したと明らかにしました。
Archaeaは、BPが2022年に約41億ドルで買収し、全米最大の再生可能天然ガス(RNG)事業者として位置づけてきた資産ですが、買収からわずか4年弱での方針転換となります。
BP:Second quarter 2026 results
BPは資本効率の観点から売却に踏み切りますが、この動きはBP一社にとどまらず、米国RNG事業の収益構造そのものが問われる出来事でもあります。
Archaeaを含む北米の事業者については、アメリカ・カナダの主要RNGデベロッパーもご参照ください。
BPが米国最大のバイオガス事業を売却する理由
好調決算の中で売却発表 数字で見るBPの判断
BPの決算リリースには「米国のバイオガス事業Archaeaの売却意向を発表します」と明記されています。
同四半期の基礎的再取得原価利益(underlying RC profit)は、57億3,200万ドルと前四半期比で25億ドル増え、純有利子負債も222億ドルまで圧縮されました。
業績が悪化したための整理ではなく、好調な局面であえて手放す判断である点に、この売却の性格がよく表れています。
背景にあるのは経営方針の転換です。2026年4月に就任したMeg O’Neill CEOは、5つの優先課題の2番目に「感情や経緯ではなく、価値に基づくポートフォリオの簡素化」を掲げました。
売却・撤退の対象は、北海事業や欧州の製油所・小売事業にも及んでおり、Archaeaもその一環に位置づけられています。
Bioenergy Insight Magazine:bp to divest Archaea biogas business due to ‘poor returns’
42億ドルの減損 低炭素事業の縮小はいつから
撤退は突然の判断ではありません。BPは2025年初頭に、エネルギー移行事業への年間投資を約70億ドルから、最大20億ドル規模へと約7割削減しています。
さらに、2025年第4四半期には、バイオガスと太陽光を中心に約42億ドルの減損を計上し、2026年第2四半期にも税引後8億ドルの減損を追加しました。
つまり今回は、帳簿価額をすでに大きく切り下げたうえでの売却着手です。資産価値の再評価は、数年かけて段階的に進んでいたことになります。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2022年10月 | BPがArchaea Energyの買収を発表(負債含め約41億ドル) |
| 2023年10月 | 初のAMDプラント(インディアナ州メドラ)が稼働 |
| 2025年初頭 | エネルギー移行事業への年間投資を約7割削減 |
| 2025年11月 | 大阪ガスがArchaeaと米国産バイオメタン調達契約を締結 |
| 2025年第4四半期 | バイオガス・太陽光を中心に約42億ドルの減損を計上 |
| 2026年8月4日 | 第2四半期決算でArchaea売却手続きの開始を発表 |
米国RNG市場のクレジット価格と制度前提の変化
D3 RIN価格の下落とバイオガス由来枠の伸び率引き下げ
埋立地ガス(LFG)由来RNGの収益は、天然ガスの卸価格ではなく、以下の環境価値クレジットに大きく依存します。
- 米国の再生可能燃料基準(RFS)で発行されるD3 RIN
- カリフォルニア州の低炭素燃料基準(LCFS)クレジット
- 2025年開始の45Zクリーン燃料生産税額控除
しかし、2025年以降はこの前提が揺らいでおり、RNG大手OPAL Fuelsの開示によると、D3 RINの平均価格は2024年の3.13ドルから、2025年には2.45ドルへと約22%下落しました。
RFSのSet 2最終規則では、バイオガス由来枠の伸び率想定が2026年で12%、2027年で5%にとどまります。
American Biogas Council(ABC)の推計では、実績が年20〜30%で伸びてきたとされ、想定と実勢のあいだに開きがあります。
RNGを増産しても単価の下落に相殺されるうえ、制度が見込む需要量の伸びも鈍化しており、価格と数量の両面で当初の収益見通しが縮んだ形です。
これらの制度の仕組みについては米国RNGの環境価値とは? RIN・LCFS・45Zの仕組みで解説しています。
石油メジャーの投資基準に合わなくなったRNG事業
LFG由来RNGは資本集約型でありながら、政策設計によって収益が変動する事業です。上流開発やトレーディングと比べて、メジャーが求める投資判断基準のもとでは競争力を保ちにくい構造にあります。
ただし、これを業界全体の後退と読むのは早計です。TotalEnergiesは2025年第4四半期に、洋上風力で7億ドルの減損を計上しながらも、「バランス型の移行戦略」を維持しています。
同じ環境下でも各社の対応は分かれており、事業そのものを手放したBPの判断には、負債圧縮を急ぐ同社固有の財務事情が強く働いたと見るのが妥当でしょう。
Archaea Energyとは 全米最大の埋立地ガスRNG事業者
Archaea Energyはテキサス州ヒューストンに本社を置き、LFGを主原料としてパイプライン品質まで精製し、RNGを供給するプラットフォームを全米で展開してきました。
bp America:Archaea Energy
BPによる買収時点(2022年)では、約50のRNG施設およびLFG発電施設を保有していました。
モジュール設計「AMD」による量産型プラント戦略
Archaeaの技術的特徴は、精製設備を規格化した自社設計「Archaea Modular Design(AMD)」にあります。
設備をスキッド上に搭載して部材の互換性を高めることで、プラントの設計・建設期間と単位コストを圧縮する狙いがあります。
2023年10月に稼働したインディアナ州メドラの1号機を皮切りに横展開が進み、2024年4月にはカンザス州ショーニーで、AMDとして最大となる処理能力9,600scfmの設備が稼働しました。
これはEPA試算で約38,000世帯分の熱量に相当し、メドラの3倍規模となります。
bp America:bp’s Archaea Energy brings online its largest modular RNG plant to date in Kansas
廃棄物大手Republic Servicesとの合弁「Lightning Renewables」でも、約40件のLFG-RNG案件が計画されており、2024年に1号機が稼働しています。
量産によって建設コストを下げるという発想自体は、バイオガス精製技術の実装として合理的なものです。今回の売却は技術の失敗ではなく、想定した収益単価が実現しなかった結果と捉えるべきでしょう。
売却後の買い手候補と日本への影響
Archaea Energyの売却はプロセスの開始段階にあり、買い手も条件も未定です。
もっとも米国のRNG資産は、長期契約に支えられた安定キャッシュフロー資産として、インフラファンドやプライベートエクイティ、廃棄物処理事業者にとって一定の妙味があります。
なおBPは、Clean Energy Fuels社との乳牛ふん尿由来RNGの提携を維持しており、RNGから完全に手を引くわけではありません。
対照的に、日本勢は逆方向に動いています。三菱商事、双日、三井物産がそれぞれ米国のバイオメタン市場へ参入しており、メジャーの撤退と商社の参入が同時に進んでいます(参考:双日が米国バイオメタン市場に参入)。
同じ資産クラスであっても、求める投資利回りと事業ポートフォリオ上の位置づけによって、評価が分かれることを示す動きです。
大阪ガスの米国産バイオメタン調達はどうなるのか
この件は、日本にとって無関係な話ではありません。大阪ガスは2025年11月にArchaeaと米国産バイオメタンの調達契約を締結し、フリーポートLNG基地で液化した貨物を2026年1月に泉北製造所で受け入れました。
3月には「三井ショッピングパーク ららぽーとEXPOCITY」へ環境価値付き都市ガスとして供給しており、海外産バイオメタンを国内の商業施設で利用した初の事例です(詳細は大阪ガスが海外産バイオメタンを商業施設に供給)。
一般に長期オフテイク契約は資産譲渡後も承継されます。ただし実務上は、次の3点が確認事項になります。
- 契約相手方の信用力(BPの財務基盤という前提が変わる)
- 環境価値証書(M-RETS等)の登録・移管手続きの継続性
- 新規案件の開発パイプラインが維持されるか(追加調達余地に直結)
日本ガス協会は2025年6月に、2050年目標を「都市ガスの5〜9割をe-メタンやバイオガスに」と修正しており、輸入バイオメタンの役割はむしろ増しています。
供給元の資本構成が変わる局面だからこそ、調達側は供給主体の継続性を含めた契約設計を点検しておく必要があります。






