長崎県諫早市のバイオマスエナジー株式会社が、国産SAFの商用化を目指す有志団体「ACT FOR SKY」に2026年9月1日付で加盟しました。
同社は独自の外熱式水蒸気改質ガス化法により、木質・草本系バイオマスや農業残渣から、水素と一酸化炭素を主成分とする合成ガスに変換する技術を有しています。
この合成ガスから、FT合成とMTJ(Methanol to Jet)の2つのルートでSAFを製造する構想を示しています。なかでもMTJは、2026年7月の国際規格改訂によって道が開かれたばかりの経路です。
廃食用油やエタノールに偏りがちな国産SAFの原料に、未利用の固体バイオマスを加えられるかどうかが今後の焦点となります。
バイオマスエナジー株式会社:バイオマスエナジー、国産SAFの普及・拡大を目指す「ACT FOR SKY」に加盟
合成ガスからSAFへ FT合成とMTJの2ルート

バイオマスエナジーは、FT合成で炭化水素をつくり、精製してジェット燃料にするルートに加え、合成ガスからいったんメタノールを生成し、それをジェット燃料に転換するMTJも検討しています。
FT合成は、CO₂と水から合成ガスをつくる三菱重工の共電解ルートと同じ後工程です。両者の違いは、合成ガスの炭素源が固体バイオマスかCO₂かという点にあります。
ASTM D7566改訂でメタノールからSAF製造が可能に
MTJが注目を集める理由は、国際規格の改訂にあります。
2026年7月30日、航空燃料規格ASTM D7566のうち、アルコールからジェット燃料をつくる経路を定めたAnnex A5の改訂版が公表され、メタノールが原料として正式に認められました。
Fraunhofer ISE:Methanol Qualified as a Feedstock for Sustainable Aviation Fuel
バイオマスエナジーの加盟発表は、その約1か月後です。ASTMは2027年2月16~18日に、東京で航空燃料の国際規格セミナーを開催する予定で、ACT FOR SKYはWG4を通じて、日本開催を支援しています。
メタノールの合成は、バイオマスエナジーが2009年から開発に取り組んできた工程です。国内では稲わら由来のバイオガスからバイオメタノールを作る試験が行われ、原料としての有用性が確認されています。
メタノールは、ガス化とメタン発酵の双方からSAFへとつながる共通の中間製品になりつつあります。
バイオマスエナジーのガス化・液体燃料化の実績
バイオマスエナジーは2006年12月に設立された企業で、バイオマス燃焼炉・ガス化装置の製造販売、熱供給、液体燃料合成を手がけています。
2016年にはシンガポールの子会社を通じて、商用1号機の運転を開始しました。
2021年のF1では、ホンダと共同開発したバイオメタノールを活用した燃料が、レッドブル・ホンダの車両に使用されました。
バイオマスエナジー株式会社:ホンダが当社技術開発センター(長崎県諫早市)で合成したバイオメタノールを活用した燃料を2021年度F1選手権で使用したことを発表
外熱式水蒸気改質ガス化法で高品質な合成ガスを生成

バイオマスエナジーの中核技術は、独自の外熱式水蒸気改質ガス化法で、定置式の噴流床で外部から熱を加え、熱分解と水蒸気改質を同時に進める方式です。
高温の無酸素雰囲気でガス化するため、同社は他のガス化技術と比べて、カロリーや水素比率の高い生成ガスを得られるとしています。
運転条件によってガス組成を調整できるため、後段の燃料合成が求める水素と一酸化炭素の比率に合わせやすい点も大きな特徴です。
原料は何か 林地残材の利用率はまだ40%
同社が原料に挙げるのは、木質系・草本系バイオマスや農業残渣など、食料と競合しない資源です。
農林水産省の資料によると、製材工場等の残材や建設発生木材はほぼ使われている一方、林地残材の利用率は令和5年(2023年)時点で、約40%にとどまっています。
農林水産省 大臣官房環境バイオマス政策課:農林水産省 説明資料(第73回大量導入小委員会)
こうした未利用の木質資源をSAF原料として活用できれば、廃食用油やエタノールとは異なる新たな原料供給源になります。
国内のSAF製造では、廃食用油などを使うHEFAが先行し、エタノールを使うATJの商用化・大規模化も進められています。
2030年度から段階的に始まる供給義務を前に、原料の選択肢を増やすことが重要な課題となっています。
SAF全体の製造経路やFT-SPK、HEFA、ATJとの違いについては、バイオガス由来SAFの製造方法と原料で詳しく解説しています。
ガス化とメタン発酵の違い 原料の水分で棲み分け

バイオガス業界から見ると、ガス化とメタン発酵は競合というより補完関係にあります。
家畜ふん尿や食品廃棄物など水分の多い原料はメタン発酵、木質・草本系バイオマスなど比較的乾燥した原料は熱化学ガス化に適しています。
メタン発酵が苦手とするリグニンの多い木質系こそ、ガス化の主戦場です。一方で稲わらのような農業残渣は、前処理を加えればメタン発酵の原料にもなり、両方式が重なる領域です。
ACT FOR SKYとは バイオマスエナジーの役割と今後の課題
ACT FOR SKYは、2022年3月に日揮ホールディングス、レボインターナショナル、ANA、JALの4社が幹事企業となって設立した有志団体です。
日本航空株式会社:国産SAF(持続可能な航空燃料)の商用化および普及・拡大に取り組む有志団体「ACT FOR SKY」を設立
事業として国産SAFに直接関わる「ACTメンバー」と、サプライチェーンを支える企業・自治体からなる「SKYメンバー」の2層構造で構成されています。
バイオマスエナジーは加盟にあたり、第二世代バイオマスの活用知見、高温燃焼技術、SAF合成に適した合成ガスの生成技術を生かす方針を示しています。
国産SAFの原料多様化という観点では、木質資源や農業残渣をSAFサプライチェーンへ組み込めるかが今後のポイントになります。
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