現在のバイオガス発電では、ガスエンジンによるコージェネレーション(CHP)が主流です。
しかし、発電効率は25〜40%程度にとどまっており、排熱を有効利用できない立地では、投入したバイオガスのエネルギーを十分に収益化できないという課題があります。
その課題を解決するために、固体酸化物形燃料電池(SOFC)の研究が進められています。
SOFCはバイオメタンに精製せず、改質反応を利用して発電します。九州大学の実証では、バイオガスを燃料とする1kW級SOFCで、発電効率62.5%(直流発電端)を達成しました。
ただし、SOFCは硫化水素に極めて弱く、高度な脱硫が必要となります。スタック交換費用などを考慮すると、必ずしもガスエンジンより収益性が高くなるわけではありません。
この記事では、なぜバイオガスを精製せずSOFCへ直接供給するのか、どこまで発電効率を高められるか、そして高効率でも投資採算が成立するとは限らない理由を、国内外の実証・研究データをもとに整理します。
バイオガスで発電効率62.5% 九州大学の実証
バイオガスは通常、メタン約60%・二酸化炭素約40%の混合ガスです(バイオガスの主成分を参照)。ガスエンジンで燃やす場合、この二酸化炭素は燃えない「かさ」でしかなく、熱として捨てられます。
一方SOFCは、燃焼ではなく電気化学反応で発電するため、熱機関に付きまとうカルノー効率の制約を受けません。ここが効率差の根本です。
九州大学水素エネルギー国際研究センターは2019年に、科学技術振興機構(JST)と国際協力機構(JICA)によるSATREPSの支援を受け、ベトナム・メコンデルタのエビ養殖場で実証を行いました。
マグネクス株式会社と共同開発した1kW級SOFCに、エビ養殖池のヘドロや稲わら、ココナッツの搾りかす由来のバイオガスを供給し、発電効率62.5%(直流発電端)を達成しています。
同大学は、これを同出力のエンジン発電機の2〜3倍にあたる水準と説明しています。
九州大学:ベトナム・メコンデルタにおける固体酸化物形燃料電池(SOFC)の実証研究 ~バイオガスの供給により世界最高レベルの発電効率62.5%を達成~
バイオガス直接供給SOFCとは 精製せずに発電できる理由

二酸化炭素が「邪魔者」から「改質剤」に変わる
SOFCは600〜800℃で動作するため、燃料極ではメタンと二酸化炭素が反応して、水素と一酸化炭素を生む「ドライリフォーミング」が進みます。
SOFCは水素だけでなく一酸化炭素も燃料にできるため、バイオガス中の二酸化炭素は除去対象ではなく、改質剤として働きます。
バイオメタンへのアップグレーディング設備を省ける可能性がある、というのが最大の設計上の利点です。
CO₂除去は不要だが脱硫は必要
バイオガス直接供給SOFCは、メタンと二酸化炭素を分離せずに利用できるのが大きな特徴です。
ただし、前処理がまったく不要というわけではありません。特に硫化水素(H₂S)はSOFCの性能を大きく低下させるため、十分な脱硫が必要です。
九州大学の実証機も、バイオガスから硫化水素を除去したうえで、SOFCへ直接供給する構成を採用しています。
国土交通省「下水汚泥エネルギー化技術ガイドライン(平成29年度版)」は、燃料電池向けのガス品質要件を硫化水素3ppm以下、シロキサン1ppm以下としており、ガスエンジン向けの10ppm以下より一段厳しい水準です。
国土交通省:下水汚泥エネルギー化技術ガイドライン―平成29年度版―
さらに、二酸化炭素を改質剤として使う直接内部改質では、この基準でも不十分な可能性があります。
Wasajjaら(Energy Science & Engineering, 2022)は、硫化水素濃度がわずか0.125ppmでも残存すると、メタン改質率が当初の95%以上から、約10時間で10%未満まで低下したと報告しています。
Wiley Online Library:The effect of H2S on internal dry reforming in biogas fuelled solid oxide fuel cells

つまり、CO₂除去装置を省ける代わりに、脱硫には従来以上の設計精度が求められます。脱硫方式の原理はバイオガス精製の解説記事、装置構成やコストは脱硫・精製装置の記事で扱っています。
一方、適切に前処理されたバイオガスであれば、長時間運転の可能性も示されています。
アサヒグループホールディングスと九州大学は、三菱日立パワーシステムズ製SOFCの3素子セルを用いた試験で、ほぼ一定の電圧を維持しながら、3,000時間を超える連続発電に成功しました。
試験中には被毒物質による明確な発電阻害も確認されなかったとしており、その後、さらに1万時間まで運転を継続しています。
アサヒグループホールディングス:バイオガス×燃料電池でクリーンな発電を目指す! ~ビール工場排水由来のガスを利用~
ガスエンジン・PAFC・SOFCの違いを比較

日本の下水処理場では、すでに燃料電池によるバイオガス発電が実用化されています。ただし主流はりん酸形(PAFC)で、外部の改質器でバイオガスから水素を取り出してから発電する方式です。
前掲の国交省ガイドラインによれば、ガスエンジンCHPの発電効率は25〜39%、105kW級の燃料電池は42%です。
これに対しSOFCは、改質器を機外に持たずセル内部で改質を行うため、設備構成を簡素にしながら、より高い電気効率を狙えます。
| 項目 | ガスエンジン | 燃料電池(PAFC等) | バイオガス直接供給SOFC |
|---|---|---|---|
| 発電効率 | 25〜39% | 42%(105kW級) | 実証機62.5%(直流発電端)/大型システム50〜62% |
| 改質器 | 不要(直接燃焼) | 外部改質器が必要 | セル内部で改質 |
| CO₂の扱い | 不活性な希釈成分 | 改質前の除去は不要 | 改質剤として利用 |
| 硫化水素の要求水準 | 10ppm以下 | 3ppm以下 | 0.125ppmでも改質阻害(文献値) |
| 主なコスト課題 | オーバーホール | セルスタック交換 | セルスタック交換 |
※ 発電効率・許容値は国土交通省「下水汚泥エネルギー化技術ガイドライン(平成29年度版)」表-2.1および表-4.14による。SOFCの効率と許容値は本文中の各出典による。
高効率でも重いコスト負担 SOFC経済性の実像

Curlettiら(Journal of Power Sources, 2015)の多目的最適化では、電気効率はバイオガス低位発熱量基準で50〜62%、燃料利用率90%のガスタービンハイブリッド構成なら70%超に到達しうるとされます。
ScienceDirect:Large size biogas-fed Solid Oxide Fuel Cell power plants with carbon dioxide management
構成は異なりますが、この水準は実機でも視野に入ってきました。
ドイツのReverionは2025年9月、シュタットベルケ・ミュールアッカーのバイオガスプラントで運転した先行量産機のコンテナ型SOFCが、CO₂の分離・回収を織り込んだうえで、電気効率74.2%を記録したと発表しました。
Reverion News:Reverion Achieves Record Efficiency I 74.2% Electrical Efficiency
スタック交換が採算を左右する
Renewable Energy誌(2024年)の技術経済評価では、規模効果により均等化発電原価(LCOE)が20kWの0.165ユーロ/kWhから200kWで0.123ユーロ/kWhへ低下する一方、コスト内訳ではスタック交換の投資負担が大きいと指摘されています。
ScienceDirect:Techno-economic evaluation of biogas-fed SOFC systems with novel biogas purification and carbon capture technologies
さらに重要なのが、Athanasiouら(Energies, 2023)の比較です。同論文はSOFCの現行コストを7,500〜10,000ユーロ/kWeとしており、内燃機関の1,500ユーロ/kWe未満と比べて5倍以上の開きがあります。
そのうえで同研究は、SOFCコストが1,100ユーロ/kWe(2035年想定)まで、つまり現状の約7分の1まで下がる前提を置きました。
それでも内部収益率は、SOFC-CHPが小規模で5.3〜13.4%、大規模で16.8〜25.3%にとどまり、内燃機関CHPの34.4%を下回ります。
一方、正味現在価値では大規模SOFCが1,250〜2,100万ユーロとなり、内燃機関の930万ユーロを上回ります。指標をIRRで見るか、NPVで見るかで結論が反転するのです。
「正のNPVが出る」という記述だけでは、投資判断の根拠にならないことがわかります。
今後の展開 分散型電源としての現実的な立ち位置
SOFCを逆に使うとSOECになる
SOFCは、燃料から電気を取り出す装置です。この反応を逆向きに動かすと、電気を使って水やCO₂を分解する固体酸化物形電解セル(SOEC)になります。セル構造は同じで、変わるのは電流の向きと供給するガスです。
高温で動作することはSOECにとって有利に働きます。分解に必要なエネルギーの一部を熱でまかなえるため、100℃未満で運転するアルカリ形やPEM形の水電解と比べて、電力の消費を抑えられるためです。
1つのセルスタックで発電と電解を切り替える構成は、可逆型SOFC(rSOC)と呼ばれます。
発電機と電解装置を別々に置く場合と比べて設置面積を小さくでき、日本でも日本特殊陶業(ニッテラ)がリバーシブルSOCシステムの開発を進めています。
日本特殊陶業:リバーシブルSOCシステム
用途は2方向に分かれます。CO₂と水を同時に電解してSAFなどの原料をつくるSOECによる共電解と、電力市場の価格に応じて発電と電解を行き来する可逆運転です。
後者は欧州で商用機の量産が始まっており、売電・水素製造・CO₂除去を組み合わせた収益モデルと、可逆運転に伴う劣化の実測データを可逆型SOFCで発電と電解を切替 独Reverionが量産開始で扱っています。
現実的な適用先は小規模・遠隔立地
欧州では、EUのHorizon 2020事業「WASTE2WATTS」(Grant No. 826234, 2019〜2023年)が、低コストなガスクリーニングとSOFCの熱統合に取り組んでいました。
CORDIS:WASTE2WATTS | Project Fact Sheet | CORDIS
日本国内では、九州大学の実証機が株式会社中山鉄工所のネットワークを通じた遠隔監視・遠隔操作に対応しており、無人運転を前提とした分散型設計が意識されています。
当面の現実的な適用先は、導管注入もバイオメタン化も選べない小規模・遠隔立地のメタン発酵プラントです。SOFCの排熱は高温で質が高く、発酵槽の温度管理と組み合わせれば、外部熱源への依存を下げられます。
逆に言えば、スタック価格が現状水準にとどまる限り、既存のガスエンジンを置き換える経済合理性は限定的です。









