スペインのマドリード工科大学(UPM)などの研究チームが、小規模な家畜農家でもバイオメタン事業を採算化できる「分散型バイオガス・ネットワーク」モデルを発表しました。
このモデルは、各農場で製造した生ガスを共同施設に集めて、一括でバイオメタンに精製する仕組みとなっており、48農場・年間11,780MWhのバイオメタン生産を前提に、損益分岐点の試算を行っています。
今後は実証を通じて、このモデルをどこまで現実の事業に展開できるかが焦点となります。
小規模農家でバイオメタン精製が進まない理由
農業で飼育される牛はメタンの主要な排出源となっており、特に集約型畜産が拡大する中、家畜ふん尿の処理が大きな課題となっています。
ふん尿を嫌気性消化(メタン発酵)させてバイオガス化する技術は、その対策として広く確立されています。
小規模な発酵設備自体は、比較的低コストで導入できる一方で、課題となるのが、その後のバイオガス精製(アップグレード)の工程です。
バイオガスを天然ガスと同等品質のバイオメタンに引き上げるには、脱炭酸などの精製設備が必要ですが、小規模プラントでは処理するガス量が限られるため、単位当たりの精製コストが大幅に上昇します。
参考記事:バイオガス精製装置の種類と選び方
中小規模の酪農・畜産農家にとって、この経済的なハードルが、バイオメタン事業への参入を阻む要因の一つとなってきました。
分散型生産・集約精製モデルの仕組みと特徴
研究チームはその解決策として、生産と精製の工程を分離する「ハブ&スポーク」型モデルを提案しており、学術誌「Sustainable Development」にも掲載されました。
Sustainable Development:Business Model and Sustainable Development Goals for an Innovative Agricultural Waste Management: Distributed Biogas Production
まず、各農場が自前の発酵槽で家畜ふん尿を処理し、精製前の生ガスを製造します。その生ガスをトラックなどで中央の共同施設(集約拠点)へ運び、そこで一括して精製を行います。
精製されたバイオメタンは、都市ガス導管へ注入するほか、車両や大型トラックなど重輸送分野の燃料として供給されます。
複数の農場が精製設備を共同利用することで、設備投資の負担や事業リスクを分散できる点が、このモデルの大きな特徴です。
従来の集約型・完全分散型との違い
このモデルの位置づけは、既存の2つの方式と比較すると、より明確になります。
| 方式 | 生産 | 精製 | 特徴・課題 |
|---|---|---|---|
| 集約型(セントラル) | 各農場のスラリーを1か所へ輸送 | 中央で一括精製 | 精製コストは低いが、エネルギー価値の低いスラリー輸送が非効率で、消化液(残さ)も1か所に集中 |
| 完全分散型(米国型) | 各農場で生産 | 各農場で精製 | 農場規模が大きい場合に成立。小規模では精製装置が割高になりやすい |
| 分散型生産+集約精製(本モデル) | 各農場で生ガスを生産 | 中央施設で共同精製 | 小規模でも精製を共同化でき、消化液は各農場に分散。リスク分散と効率化を両立 |
48農場モデルの技術経済分析
研究チームは、48農場で構成されるネットワークを想定した技術経済分析を実施し、事業性を定量的に評価しました。主な試算結果は以下のとおりです。
- 対象農場数:48か所
- バイオメタン生産量:年間11,780MWh
- 初期投資(CAPEX):765万ユーロ(消化・輸送・精製の3段階に区分)
- 年間運転費(OPEX):109.5万ユーロ
- これらをもとに、複数の時間軸でバイオメタンの損益分岐点価格を算出
生産と精製を分離することで、各農場のスラリーをそのまま輸送する非効率を避けながら、精製設備の規模を確保できる点が、このモデルの合理性と経済性を支えています。
各市場プレーヤーとSDGsへの貢献
この研究では、技術的・経済的な実現可能性だけでなく、事業を成立させるために連携が必要となる3者についても整理しています。
- 農場:廃棄物処理に関する環境規制への対応義務を負う供給側
- 大口投資家:再生可能エネルギーへの投資機会と自社の排出削減を求める資金の出し手
- バイオメタン消費者:輸送フリートや大型トラックなど、脱炭素燃料を必要とする需要側
研究チームは、利害関係者を結ぶコミュニケーション戦略の構築が、普及の鍵になると指摘しています。
また、国連の持続可能な開発目標(SDGs)との整合性も評価され、特に「手頃で持続可能なエネルギー(SDG7)」と「つくる責任・つかう責任(SDG12)」への貢献が期待できます。
欧州の農村エネルギー転換と日本への示唆
研究チームは、この分散型生産モデルが単なる地域のふん尿処理対策にとどまらず、欧州の各地域で展開可能な「農村エネルギー転換のひな形」になり得ると結論付けています。
小規模農家が連携し、インフラを共同利用するという考え方は、小規模な畜産経営が多い日本にとっても、大きな示唆を与えるものです。
FIPへの移行や、都市ガス導管への注入制度の整備が進むなか、点在する農場を結ぶバーチャルパイプラインを組み合わせれば、日本国内でも応用できる可能性があります。
ただし、この研究は技術経済モデルによる試算であり、輸送距離やガス品質、各国の補助制度によって採算性が大きく変動するため、実用化に向けた検証を進める必要があります。










