MUIC Kansai(関西イノベーションセンター)と光オンデマンドケミカルは2026年6月17日、廃棄物由来のバイオガスから光を使って、有用な化学品を作り出す世界初の技術実証を開始すると発表しました。
MUIC Kansai NEWS:世界初、「光」を用いて廃棄物から化学品を作る技術実証を泉南市で実施
実証期間は2026年6月から11月末までとなっており、泉南市・神戸大学・ヴァイオス・池田泉州銀行の4者が加わってコンソーシアムを結成し、実証試験を行います。
これまでエネルギー用途が中心だったバイオガスを、化学品の原料に転換する新たなアプローチとして注目されています。
泉南市 実証実験の概要
今回の実証実験では、神戸大学発の「光オン・デマンド合成技術」を用いて、ポリウレタン原料となるイソシアネートを合成します。
実証は泉南市をフィールドとして行われ、野菜くずや漂着アオサ、し尿をメタン発酵させて、バイオガスを生成し、そのバイオガスに光を照射して化学品に転換します。
約6ヶ月にわたって、イソシアネートの生成量や品質を評価し、プロセスの再現性、安全性を検証します。
- 原料:泉南市内の学校給食加工で出た野菜くずや残飯、海岸の漂着アオサ、し尿などの未利用資源
- 実証期間:2026年6月~2026年11月末(約6ヶ月)
- 実施場所:泉南市および神戸大学「KOBE光ものづくりオープンイノベーション拠点」
- 到達目標:ポリウレタン原料(イソシアネート)の生成量・品質・再現性・安全性の検証
光ものづくりとは何か 既存技術との違い

実証実験の中核となるのは、神戸大学の津田明彦准教授が開発した「光オン・デマンド合成技術」です。
これは、バイオガスの主成分であるメタン、海水の電気分解で得られる塩素、そして空気中の酸素を原料とし、光を照射して瞬時に有用化学品を生み出す技術です。
この技術は、津田准教授が創業した神戸大学発スタートアップ、光オンデマンドケミカルが事業化を進めています。
参考サイト:光オンデマンドケミカル株式会社
一時的にメタンからホスゲンに変換
ポリウレタンやポリカーボネートの原料を製造する際は、本来ホスゲンという物質が使われます。
ホスゲンは極めて毒性が高く、世界の生産規模が年間800万〜1000万トンに上る重要な化学原料でありながら、取り扱いに伴う危険性が大きな課題となっていました。
津田准教授のグループは、紫外光を当てることでメタンやクロロホルムからホスゲンを高効率で生成し、その瞬間に目的の化学品へと反応させる手法を世界で初めて確立しました。
日刊工業新聞:神戸大学、紫外光でメタンからホスゲン生成 “光モノづくり”推進
ホスゲンが存在する時間を極限まで短くし、危険物を貯蔵・運搬せずに済むようにした点が、従来の大規模集中型化学プロセスとの決定的な違いです。
すでに実証済みの技術的裏付け
この技術はすでに実証実験が行われており、神戸大学は2024年10月、神戸市東灘処理場で発生した下水消化ガスから、高付加価値な有用化学品を合成する実験を行っています。
神戸大学:神⼾⼤学・神⼾市・光オンデマンドケミカル(株)による地域連携の成果︓バイオガスから医農薬原料やポリマーの合成に成功︕
さらに光オンデマンドケミカルは、2025年度に泉南市の漂着アオサに由来するメタンガスから、有用化学品を生成する実証実験にも成功しています。
今回の泉南市での実証実験は、これまでの成果を踏まえ、量産化に向けてスケールアップを図る段階に位置づけられています。
光オンデマンド実験の背景 資源循環と化学品の脱石油化

今回の光オンデマンド実証が行われた背景には、大きく分けて二つの社会的要請があります。
一つは、廃棄物や未利用資源の循環利用です。食品残渣やし尿、漂着海藻といった有機性廃棄物は、埋立て等によって嫌気性条件下に置くとメタンが発生します。
メタンは地球温暖化係数がCO₂の約28倍にも上る強力な温室効果ガスであるため、こうした有機性廃棄物をメタン発酵させ、エネルギーや資源へと転換することが求められています。
もう一つは、化学産業の脱石油化です。医薬品やプラスチックの原料の多くは石油に由来しているため、原料調達の段階における脱炭素化が課題となっています。
自然由来であるバイオガスを化学品の原料として活用できれば、環境負荷が低く、地域分散型の生産モデルを実現できます。
コンソーシアムの役割分担と地域の意義
この実証実験は、産官学金(産業・行政・大学・金融)の4セクターが連携して取り組む点に特徴があります。それぞれの役割は次の通りです。
| 主体 | 主な役割 |
|---|---|
| MUIC Kansai | 実証企画の立案支援・プロジェクト推進のための資金支援 |
| 光オンデマンドケミカル | 技術提供・実験設計・生成および分析評価 |
| 泉南市 | 原料確保・実証フィールド調整 |
| 神戸大学 | 研究連携・支援 |
| ヴァイオス | 原料からのメタン発酵プロセス |
| 池田泉州銀行 | 関係者間の調整・ファシリテーター |
原料となる廃棄物を地域内で回収してバイオガス化し、さらに化学品へと変換する「地産地消型」の循環モデルは、廃棄物の運搬に伴うコストや、CO₂排出量を抑えられるという点でも合理的です。
メタン発酵プロセスを担うヴァイオスは、小型・コンテナ型のバイオガスプラントを開発した実績を持ち、食品工場や廃棄物の排出拠点へのオンサイト(現地)設置を可能にしています。
原料の回収から、メタン発酵、化学合成、そして事業化の支援に至るまでを一気通貫で設計できる体制が整っているため、社会実装に向けた現実味がより一層高まっています。
エネルギーから化学品に バイオガスの新たな用途
これまでバイオガスは、発電や熱利用、あるいは都市ガス相当のバイオメタン精製など、エネルギー利用が主な用途となっていました。
今回の取り組みは、そのバイオガスを化学品(マテリアル)の原料として活用する点で、業界に新たな選択肢を示すものです。
エネルギー用途にとどまらず、医薬品の原薬や香料、接着剤、ポリウレタンといった高付加価値な化学品へと転換できれば、バイオガス事業の収益モデルが大きく変わる可能性があります。
メタンとCO₂双方の排出削減に寄与しながら、化学品の製造という新たな用途を目指す試みとして、今後の進展が注目されます。






