オーストラリアのメルボルン大学は2026年4月、バイオメタンに含まれる不純物「シロキサン」について、家庭用ガス機器への影響を評価する研究成果を発表しました。
University of Melbourne:Australian researchers unlock path to scaling gas made from waste
シロキサンは、燃焼するとガラス質のシリカ(SiO₂)に変化し、ボイラーや給湯器の内部に堆積して機器を傷めるため、影響のないレベルまで除去する必要があります。
この成果は豪州のガス品質規格「AS 4564:2025」の改訂にも活用され、下水処理場や埋立地から発生するガスの普及にも貢献すると見込まれます。
豪州の燃料危機と廃棄物由来ガスへの期待
オーストラリアでは精製燃料の約9割を輸入に頼っており、2026年に入って中東情勢が悪化するとガソリン価格が急騰したため、エネルギー安全保障が国家的な課題として一気に浮上しました。
また、運輸部門は温室効果ガス排出量の約22%を占める第3位の排出源であり、いまも増加傾向にあります。
こうした中で、下水汚泥や食品廃棄物、家畜ふん尿から製造されるバイオメタン(再生可能天然ガス、RNG)が、現実的な代替策として注目を集めています。
BlunomyとEnergy Networks Australiaの試算によると、豪州では廃棄物から年間最大400PJのバイオメタンを回収することが可能とされます。
Blunomy & Energy Networks Australia:Biomethane opportunities to decarbonise Australian industry
これは東海岸のガス需要のうち、約96%を代替できる規模に相当し、既存のガス導管をそのまま活用できる点も強みです。
全国普及を阻むバイオメタン規格の空白
ただし、全国規模で普及させるためには、「どの程度まで精製すると安全にガス網へ注入できるのか」という技術的・制度的な課題が残されていました。
従来の天然ガス規格「AS 4564」は、バイオメタン特有の不純物を想定しておらず、この基準の空白が投資判断におけるリスク要因となっていました。
シロキサン除去から許容限界へ転換
今回の研究で焦点となったのは、バイオガスに微量に含まれる有機ケイ素化合物「シロキサン」です。
シロキサンはシャンプーや消臭剤、化粧品などに広く使われており、使用後は下水や廃棄物へと流入します。
そのため、下水処理場や埋立地(LFG)由来の原料を主体とするオーストラリアのバイオメタンは、特にシロキサン混入の影響を受けやすいという事情があります。
ガス機器を傷めるメカニズム
シロキサンを含んだガスを燃焼させると、酸化によって二酸化ケイ素(SiO₂)のナノ粒子へと変化し、それが機器内部に堆積して以下のような不具合を引き起こします。
- 配管壁・プレート・火炎センサーへのガラス質の堆積
- 熱伝達の阻害と燃焼効率の低下
- 機器の早期劣化・故障
ここで課題となるのは、シロキサンを完全にゼロになるまで除去することが、技術的にも経済的にも現実的ではないという点です。
そこで研究チームは、機器の信頼性を保ちながら精製コストも抑えられる、最適な許容濃度の見極めを目指しました。
University of Melbourne:Australian-made, renewable fuel for a resilient energy future
バーナー実験とシミュレーションの組み合わせ
豪大学のチームは、ボイラーや給湯器といった家庭用ガス機器の実運転条件を模擬した専用バーナーを自作し、シリカ堆積の挙動を計測しました。
ただし、低濃度では計測可能な量の堆積が生じるまでに数百時間を要するため、流体・粒子動力学シミュレーションを併用して検証を行っています。
シミュレーション結果を実験データと組み合わせ、機器の寿命を15年と想定したうえで、単なる仮定に頼らない科学的なシロキサンの濃度限界値を導き出しました。
豪州規格AS 4564:2025改訂 天然ガス相当に
これらの研究成果は、豪州規格「AS 4564」の2025年改訂版「AS 4564:2025 General-purpose natural gas and natural gas equivalents」に反映されました。
Australian Pipelines and Gas Association(APGA):Submission: Draft AS4564:2025 – General-purpose Natural Gas
旧版の「AS 4564:2020」を置き換える今回の改訂では、バイオメタンが初めて「天然ガス相当」として正式に位置づけられたほか、バイオメタン固有の不純物基準を新設した点が大きな特徴です。
| 項目 | AS 4564:2020 | AS 4564:2025 |
|---|---|---|
| バイオメタンの扱い | 個別規定なし | 「天然ガス相当」として明記 |
| バイオメタン固有の不純物 | 規定なし | シロキサン・リモネン・フッ素・塩素・アンモニアを新設 |
| 一般不純物 | 従来項目 | トルエン・ヒ素・キシレンを追加 |
| 原料別リスク | — | 原料別のリスク評価ガイダンス(参考附属書) |
この規格整備によって、ガスの流通事業者、機器メーカー、規制当局が共通の基準を持てるようになり、バイオメタンを既存のガス網へ、安全かつ大規模に注入していくための実務的な道筋が整いました。
バイオメタン規格整備と今後の展開
豪大学の研究チームは、すでに産業パートナーとの間で、追加研究とバイオメタンのさらなる普及に向けた協議を進めています。
下水汚泥由来のバイオガスではシロキサン対策が重要です。その許容範囲を科学的に定める今回のアプローチは、ガス品質や精製コスト最適化を検討する際に重要となります。
今回の規格整備は、これまで農業系原料に偏りがちだった豪州のバイオメタン投資を、下水・都市廃棄物由来のプロジェクトに向ける一助になると見込まれます。










