米国バイオガス協会(American Biogas Council:ABC)のレポートによると、米国では酪農場由来のバイオガス設備が、2020年末と比べて約2倍に拡大、バイオガス捕捉量も130%増加しています。
それに伴い、酪農由来のRNG生産も急成長しており、その背景にはRFS(再生可能燃料基準)や、LCFS(低炭素燃料基準)による環境価値収益の向上があります。
American Biogas Council:American Biogas Council Marks National Dairy Month with New Data Highlighting Increased Methane Capture at Dairies
特に注目すべきは用途構成の変化で、2020年には発電用途が主流でしたが、2025年時点ではRNG製造が全体の60%を占めるまでに逆転しています。
米国酪農バイオガス市場の急拡大と最新データ
American Biogas Council(ABC)が2025年6月30日に公表したレポートによると、現在米国内で稼働している酪農場由来のバイオガスシステムは471基に達しており、2020年末時点の約2倍となっています。
バイオガスの捕捉量は毎分144,454立方フィートとなり、130%の増加を記録しました。これは年間換算で約4,720万MMBtuに相当し、約61万5,000世帯分の電力消費をまかなえる規模です。
2020年以降の累計投資額は約30億ドルに上り、2024年の単年だけでも11億ドルが投下されました。
また、Bioenergy Insightのレポートでは、2025年だけで38の農場が新たに稼働を開始し、新規捕捉量として年間約9Bcfが加わったとされています。
Bioenergy Insight:US dairy biogas capacity nearly triples since 2020
| 指標 | 2020年末 | 2025年6月 | 変化率 |
|---|---|---|---|
| 稼働システム数 | 約235基 | 471基 | 約2倍 |
| バイオガス捕捉量 | 基準値 | 毎分144,454 cf | +130% |
| RNG利用比率 | 26% | 60% | +34ポイント |
| 発電利用比率 | 74% | 40% | ▲34ポイント |
| 累計投資額(2020年以降) | — | 約30億ドル | — |
出典:American Biogas Council プレスリリース(2025年6月30日)
米国バイオガス成長を支える政策 RFSとLCFS
米国における酪農バイオガス市場の急成長を理解するうえで欠かせないのが、環境価値収益の構造を支える2つの政策制度、RFSとLCFSです。
RFS(再生可能燃料基準)とD3 RINの仕組み
酪農由来のRNGは、連邦レベルのRFS(Renewable Fuel Standard)のもとで、D3カテゴリーの再生可能識別番号(RIN:Renewable Identification Number)を取得できます。
D3 RINは、セルロース系バイオ燃料として最上位に分類されるため、D4(バイオマスディーゼル)や、D5(先進バイオ燃料)、D6(従来型バイオ燃料)と比べて高い市場価値を持っています。
RINは、RNGの1MMBtuあたり複数枚発行されるため、天然ガスの市場価格に上乗せする形で、実質的な収益を確保することができます。
EPA:Renewable Natural Gas from Agricultural-Based AD/Biogas Systems
LCFS(低炭素燃料基準)が生み出す高付加価値と投資
カリフォルニア州が導入しているLCFS(Low Carbon Fuel Standard)は、輸送用燃料のライフサイクル全体における温室効果ガス排出量を、カーボンインテンシティ(CI値:gCO₂e/MJ)で評価する制度です。
California Air Resources Board (CARB):Low Carbon Fuel Standard
CARBが年度ごとに設定するCI基準値を下回る低炭素燃料にはクレジットが創出され、基準値を上回る燃料にはデビットが発生します。
デビットが発生した燃料供給者は、自ら創出したクレジット、または市場で購入したクレジットを使って、年間の遵守義務を満たす必要があります。
酪農ふん尿由来のRNGは、何もしなければ大気中に放出されてしまうはずのメタンを回収して利用するため、CI値がマイナスになるケースがあります。
ABCの資料では、酪農ふん尿由来のRNGのCI値が−250 gCO₂e/MJに達した事例も報告されています。
参照値となるディーゼル燃料のCI値(約82 gCO₂e/MJ)との差分がLCFSクレジットとなるため、この差分が大きいほど高い環境価値収益を生み出します。
埋立地ガス(LFG)や他の有機廃棄物由来のRNGと比べて、酪農ふん尿の価格優位性は高く、それが主要な投資要因の一つとなっています。
発電からRNGへ 用途転換の意味
2020年末の時点では、米国の酪農バイオガスシステムの74%が発電や熱利用に用いられており、RNG製造の割合は26%にすぎませんでした。
2025年6月時点ではこの比率が逆転し、RNG製造が60%、発電および熱利用が40%となりました。この変化はバイオガスの収益構造が根本から変化したことを示しています。
発電利用の場合、その収益はREC(再生可能エネルギー証書)や、電力の卸売価格に依存します。
しかし、RNGを製造する場合は、さらにRINとLCFSクレジットが加わるため、天然ガスの市場価格(Henry Hub価格)を大きく上回る収益が期待できます。
また、酪農ダイジェスターも変化しており、2020年末にはタンク型が24%、覆い付きのラグーン型が76%でしたが、2025年時点ではラグーン型が43%にまで低下し、代わってタンク型の普及が加速しています。
Renewable Energy Magazine:Report on Current Biogas Landscape in the U.S. Dairy Sector
タンク型は温度管理や攪拌が容易でメタン収率が高い反面、建設コストも高いという特徴がありますが、RINとLCFSクレジットがもたらす高収益が、その投資回収を後押しする形となっています。
米国酪農バイオガスのポテンシャル
ABCが2025年5月に更新した州別プロファイルによると、500頭以上を飼養する酪農場を基準とした場合、新たに開発可能なサイトは全米で約2,980農場に上ると推計されています。
参考記事:米国バイオガス協会が州別バイオガスデータマップを公開
現在の稼働数である471基は、その潜在能力の約14%にすぎません。新規開発のポテンシャルを州別に見ると、ウィスコンシン州が561か所で最多となっています。
その一方で、カリフォルニア州には全米の稼働システムの3分の1以上が集中していますが、そこでもさらに543か所の開発余地が残されています。
- カリフォルニア州:稼働数が最多で、LCFSの恩恵を最大限に活用できる環境が整備済み
- テキサス州・アイダホ州・ウィスコンシン州:ここ数年で新規投資が集中した高成長州
- 全米ポテンシャル:現稼働数の6倍以上の追加開発余地
日本企業もそのポテンシャルを評価し、三菱商事や双日などの大手商社が、米国のバイオメタン・RNG事業を拡大しています。
参考記事:三菱商事が米国Divertと提携 北米の食品廃棄物RNG事業を拡大
参考記事:双日が米国バイオメタン市場に参入 埋立地ガス(LFG)活用で事業拡大へ
日本の視点から見ると、現在国内でも家畜ふん尿由来のバイオガス活用が北海道を中心に進んでいますが、バイオガスの「発電から燃料へ」という用途転換の波は、日本にも波及しつつあります。
米国モデルの政策設計や収益構造は、日本のFIP制度やバイオメタンの都市ガス注入の普及を検討する上で、重要な参照事例となります。
参考記事:北米RNGデベロッパー・設備メーカー・プロバイダー










