産業技術総合研究所(産総研)と鹿児島工業高等専門学校の研究グループが2026年7月8日、バイオものづくり工程で生じる廃棄物と廃水を一括処理して、メタンを回収できる新型反応器を開発したと発表しました。
装置名は「嫌気性バッフル連続撹拌一体型反応器(ABCS:Anaerobic Baffled Continuous Stirred)」で、固形有機性廃棄物と高濃度有機性廃水をまとめて処理し、メタンとしてエネルギーを回収します。
産業技術総合研究所:産総研:バイオものづくり由来の廃棄物と廃水をまとめて処理してエネルギー回収
従来型の嫌気性バッフル反応器(ABR)と比べて、メタンガス生成速度は1.62倍となり、ABCS反応器は100日以上の連続運転でも固形物の蓄積は見られませんでした。
バイオものづくり由来の廃棄物・廃水が抱える処理課題
2024年6月に策定されたバイオエコノミー戦略のもとで、微生物や酵素で化学品・材料をつくるバイオものづくりは今後拡大すると見込まれます。
ただし、この産業が伸びるほど、これまで想定しなかった性状の廃棄物・廃水が発生します。
糖化残渣と高濃度有機性廃水はなぜ処理が難しいのか
産総研によると、植物バイオマスを分解して糖を得る過程では、糖にならない固形分が「糖化残渣」として残ります。セルロースやリグニンなど難分解性の有機物を含むものです。
一方、微生物培養の工程からは、糖や有機酸を高濃度に含んだ廃水が出ます。糖化残渣は脱水・乾燥のうえ焼却されるのが一般的ですが、水分を飛ばすエネルギー消費が大きくなります。
高濃度有機性廃水は活性汚泥法などの好気性処理に回されますが、有機物濃度が高い分、酸素量(曝気量)と微生物量が膨大になり、設備も大規模化します。
いずれもエネルギーを投入して処分する構図であり、嫌気性消化への期待は以前から指摘されてきました。
既存の嫌気性反応器(UASB・ABR)が固形物を苦手とする理由
既存の廃水処理用嫌気性反応器は、固形物を想定していない点が課題となります。
UASBやABRは、汚泥を高濃度に保持して処理速度を稼ぐ設計であり、その結果として、流入した固形物が反応器内に留まりやすいとも言えます。
固形有機物の加水分解は律速段階で、微生物との接触効率も低いため、処理可能な有機物負荷に上限が生じていました。
もう一つが酸性化です。有機物濃度が高い条件では酸生成が先行し、蓄積した有機酸でpHが低下します。
メタン生成を担う微生物は中性付近で活性が高いため、酸性化は反応全体の停滞に直結します。固形物の蓄積と並ぶ従来型の弱点として、産総研も課題に挙げています。
ABCS反応器とは? 構造と反応の仕組み

ABCS反応器は、連続撹拌部とバッフル型の流路部を単一カラム内に統合し、固形有機物の分解からメタン生成までを一つの槽で段階的に進める嫌気性反応器です。
撹拌部と流路部の役割分担
前段の撹拌部で固形有機物と微生物の接触効率を高め、セルロースなどの高分子有機物を、グルコースなどの低分子へ分解しています。
続く仕切り板付きの流路部で、低分子の分解とメタン生成が段階的に進みます。
メタン発酵で槽を分けずに段階化
加水分解・酸生成とメタン生成を分ける「二相式メタン発酵」の考え方自体は目新しくありません。
1971年にPohlandとGhoshが提唱した相分離の概念以来、二相式メタン発酵として研究・実用化されてきました。ただし従来は槽を分け、pHや滞留時間を個別に制御する構成が主流でした。
ABCS反応器の特徴は、槽を分けずに一つの反応器内で段階化を実現した点にあります。原論文はこれを「二段式(two-stage)」と規定しています。
区画間は緩やかなスロープで接続され、これが固形物の滞留を防いでいます。省スペース化という点で実装上の意味は小さくありません。
従来型ABRとの100日連続運転比較

検証では、撹拌部を持たない従来型ABRと並行して、ABCS反応器を100日以上運転しました。処理対象は、バイオものづくり工程を模擬した固形有機物と、約25,000 mg COD/L の高濃度有機性廃水です。
大阪市の下水処理場の流入水は年平均でBOD 120 mg/L 程度ですから、桁が二つ違う濃度域にあたります。好気性処理で受けるには曝気動力が過大になることがわかります。
| 項目 | ABCS反応器 | 従来型ABR |
|---|---|---|
| メタンガス生成速度 | ABRの1.62倍 | 基準 |
| 反応器内の固形物 | 分解され蓄積なし | 未分解のまま蓄積 |
| 有機物除去率 | 同程度 | 同程度(見かけ上) |
| 長期運転の見通し | 100日以上安定 | 流路閉塞による破綻が予測される |
COD除去率が同水準でも「除去」ではなかった理由
実務者が注目すべきは、有機物除去率が両者で同程度だった点です。ABRは固形物が内部に溜まることで処理水の有機物濃度が下がり、流入量と流出量の比では同水準を示しました。
しかし、実態は除去ではなく「滞留」であり、運転を続ければ流路閉塞に至ると産総研は指摘しています。
COD除去率という単一指標だけでは反応器内の蓄積を見落としかねないという、既存プラントの運転管理にも通じる示唆です。
微生物叢解析が示した性能差の要因

16S rRNA遺伝子アンプリコン解析では、両反応器とも有機酸をメタンへ変換する微生物(SyntrophobacterやSyntrophomonadaceae、Methanothrix、Methanobacteriumなど)が検出されました。
差が出たのは前段です。ABCS反応器ではセルロースやグルコースを分解するBacteroidesやDysgonomonasが高い割合で存在した一方、ABRではこれらが非常に低い水準でした。
撹拌部という物理的構造が、分解を担う細菌の増殖環境そのものを作り出したと考えられます。
バイオガス・廃水処理の実務への示唆
原料カテゴリの拡張
バイオガス事業の原料は従来、家畜排せつ物、食品廃棄物、下水汚泥が中心でした。今回の成果は、そこにバイオ化学品・バイオプラスチック製造プロセスという新たな原料カテゴリが加わりうることを示しています。
固形物を含む原料の受け入れ設計という点では、既存プラントの前処理設備の考え方とも接続します。
参考記事:前処理設備の解説記事
ABCS反応器は、前処理が担ってきた可溶化の一部を反応器内部に取り込んだ構成とも読めます。
廃水処理設備をコストセンターからエネルギー源へ
好気性処理では曝気に電力を投じ続けますが、嫌気性消化に置き換われば曝気電力が不要になるうえ、メタンとしてエネルギーが戻ります。
産総研は同技術を「廃水処理設備の運転効率向上と省スペース化、さらにエネルギーの自給を可能にする」と位置付けています。
また、2026年6月に発酵産業廃水の窒素を、アンモニウムイオンとして回収する微好気性活性汚泥プロセスを発表しました。産業廃水を資源として扱う流れは、一つの潮流になりつつあります。
産業技術総合研究所:「棄てる」廃水処理から「活かす」廃水処理へ
スケールアップ実証とケミカルリサイクルへの横展開
産総研は今後の予定として次を挙げています。
- ABCS反応器のスケールアップによる実装に向けた実証試験
- プラスチックケミカルリサイクル由来の廃棄物・廃水を対象とした処理試験
- 他の固形有機物を含む廃水・廃棄物への横展開
現時点ではラボスケールでの模擬廃水による検証段階です。実廃水の性状変動への対応と、撹拌動力を含めたエネルギー収支の成立が今後の実証課題となります。
とくに撹拌部を持つ構成はABRに対して常時動力を要します。回収メタン量の増分が撹拌の消費電力を上回るかどうか、スケールアップ時の正味エネルギー収支が事業性を左右します。
産総研は2022年にも、PET原料(PTA・DMT)の製造廃水をUASB反応器で一括処理する成果を発表しています。異なる性状の廃水をまとめて処理するという発想は、今回のABCS反応器にも通じるものです。
産業技術総合研究所:産総研:ペットボトル原料製造過程における難分解性廃水の効率的な処理に成功
ABCS反応器 出典・論文情報
この技術の詳細は、2026年6月29日に以下でオンライン掲載されています。
Journal of Environmental Chemical Engineering:Development of an anaerobic baffled continuous stirring (ABCS) reactor for co-digestion of synthetic high-strength wastewater and solid organic waste
ABCS反応器の研究体制
- 産総研 バイオものづくり研究センター: 一色理乃 研究員、黒田恭平 主任研究員、成廣隆 研究センター付、環境創生研究部門 青柳智 主任研究員、堀知行 研究グループ長
- 鹿児島工業高等専門学校 創造デザイン工学科: 山田真義 教授、山内正仁 教授






